高橋是清随想録 神の心 人の心

(1932年7月)

神の心

人心荒み、道徳廃れて、人類の上に、永遠の闇がかぶさってしまったように思われる時代がある。現在が、丁度その時代だ。しかし、私は信ずる。この状態はそう何時までも続きはしない。いつか又、明るい世界になるであろうと。

ほんとうに「正しい」というものは、神の心より外にはない。神の心こそ、世界に於いてただ一つの「正しい」ものだ。人間にも、神の心はある。その心が人間のなかに輝き出す時、人はさながら神となり、地上はこのままに一つの楽園となるであろうが、なかなかそうはゆかないのは、いろいろの我欲や煩悩が、その神の心を曇らしているからである。

しかし、この神の心が全然、人間のなかから消えてしまうものでない以上、人間は、そう限りなく堕落してゆくものではない。我欲・煩悩にのみ囚われていると、他を傷けるばかりでなく、自分もまた傷ける。結局自他共によい事がなくなるので、やがて「これじゃいけない」と気がつき、正しい道に立ち直ることになる。何人が教えなくても、自然、そういう事になるのである。

(続く)