サンマテオの詩

本書は「アメリカ新一世の生活手記」という副題がつき1991年刊行された。著者は篠崎フジエ。自費出版で、東京都立多摩図書館、世田谷区立図書館、鹿児島県立図書館、大阪府豊中市図書館、福岡県古賀市図書館、和歌山市立図書館などで蔵書されている。大変面白く参考になる本である。大正期の日本人移民の実態、アメリカでの仕事、生活、娯楽、日本人収容所、今の教育制度なども良く描かれている。これは父親安部逓二郎(天声360号)の2度にわたる渡米、夫・篠崎家の歴史、自分史などを軸として書かれている。大神様アメリカご巡教当時の日系人社会、アメリカ人の日本に対する感情などの時代背景もよく分かる本である。
著者は紀元16年の大神様アメリカ巡教で大神様のご説法を聞き、個人指導も受け入教している。その2年前に渡米したばかりであった。住み込み家政婦をしていたルース家の庭師・棟広製一氏に誘われ、パルアルトの棟広宅でのご説法に通った。(生書3巻P96ーp101)ルース家は富豪でありその地の有力者であったが、人間的にも立派な人で、かってヘンリー棟広がスクールボーイとして同家に住み込みで高校に通ったこともあった。この神教の縁で同志の久保田夫人(天声38号、226号)から篠崎ユージンという日系2世を紹介され結婚した。この辺りのことは天声196、198号にも篠崎フジエさんが書かれている。彼女の旧姓は安部であり、親戚もアメリカに何人もいた。本書は、文字数当たりの情報量が際立って多いという特色がある。著者が観察・分析能力に優れた頭脳明晰な美しい女性だったことが活き活きと伝わってくる。
夫妻は紀元20年の大神様世界ご巡教でも会われている。生書4巻P293:サンマテオでのご説法、個人指導の時、夫が「独立して自動車整備工場を始めたいのですが」と伺うと「自分が少し上手になったと思うと、もう人の下で働くのはばからしいと思うようになる。しかし人に雇われている間に一生懸命に働いて、雇い主に儲けさせてあげないといけないんですよ。そうすると、それが「人の徳」になって積まれて、今度自分が独立した時には商売が繁盛するのです。それをしないで、少し上手になったと思ってすぐ独立すれば、徳が積まれていないので、商売は失敗に終わる。今の職場で7年一生懸命頑張って徳を積むよう心がけなさい。」とご指導された。彼らは以後の大神様のご説法を聞くためご巡教を追いかけ、ロサンゼルスでハワイに帰られる所まで付いて行った。ご本部参りもしている。大神様のご指導を彼らは実行し成功した。
子供は3人いたが、幼児より日本語教育をし、長女イエレンが日本に留学していた紀元34年ユージンが脳溢血で急死した。(天声307号P58)フジエさんは事業を引き継ぎ、3人の子供を立派に育てた。同志としても立派に育て、子供たちは神の国の結婚をし、アメリカの支部で活躍している。ユージンの母親、恵美子さんも紀元32年頃入教している。(天声298号)。ユージンの二人の弟も入教し神の国の結婚をしていて、彼らの子供たちも熱心な同志である。日本からは藤井とし子さんが大神様のお世話で嫁入りしている。天声335号。アメリカの篠崎一族・安部一族から、有力な同志が多数でているが、その端緒はフジエさんの入教である。
父親に奇跡的な偶然が重なってアメリカに住み、強制的な偶然が重なって、フジエさんはアメリカに住み大神様に引き寄せられて行く。本書の興味深い点の一つである。何故サクラメントに神教が浸透したのか、何故サンマテオで有力な白人同志が生まれたのか、この背景も伺える書でもある。
(注)天声198号の篠崎スミエさんはフジエさんの別名と思われる。従兄弟の安部正芳さんに関係する本書での内容と天声235号P61,198号の内容は符合している。この235号にはユージンの弟フランクと後に結婚する坂田キャロリンさんの投稿もある。彼らの結婚式がハワイ道場での初回の結魂式であった。