痛いところ

人間だれしも「痛いところ」を持っている。この真実は本人しかわからない。例えばAさんは沢庵漬けが食事メニューにあると露骨に怒る。Bさんはご飯にサツマイモが混ぜられていると食べない。これは食品アレルギーではなく、心的アレルギーなのだ。Aさんは少年時代丁稚奉公の時のつらい経験・その時の沢庵だけの食事を思い起こすことで腹を立てる。Bさんは終戦直後の酷い食糧難時代、芋やツルを代用食として食べさせられた嫌な思い出のため、混ぜご飯が大嫌いなのだ。
このような心的アレルギーは、普通に付き合っている人に、形こそ違え潜んでいる。他人には想像もできないだろう。神教には磨きの会というものがあり、各自が自由に発言できる。各自がそれを聞き、自分も反省して悪癖を直すきっかけにする大切な場である。ここで、誰か(X)が気づかずに、誰か(Y)の痛いところを突いてしまうということが起こる。Yは内心大変怒る。XはなぜYがこんなに感情的になったかは理解できないし、出席していた他の人も理解不能だろう。しかしYは深く傷ついてしまう。
Yは自分の弱点に気付くチャンスをもらえたとも言えるわけで、この機会をくれたXに感謝し、痛いところを指摘されると怒り易い自分を直す努力をすべきだ。これが神教。神教の凄い所は、ひとつの悪癖に気付くと、次々と自分がこれまで気づかずにきた潜在する悪癖を気付かしてもらえることだ。ある人は毎朝妙なストーリーの夢を見続ける。反省するとそれは自分の「痛いところ」の弱点に過剰反応してしまう夢ばかりだ。これで自分の悪癖・弱点が次々と自覚できるようになる。
Xも自分の言葉に注意し、状況を良く考えて発言しないといけないと反省すべきだが、これは困難だろう。それは腹を立てているYが正直にその時にはすべてを言えないためである。そこでXに生霊が来たり、業の種が知らずに積もる。言葉というのは恐ろしい。大神様は特に推定で話すことを次のように注意されたことがある。
「人に話す時は自信のある事を言い、責任のあることを言ったりせんにゃいけん。2つの耳があって、2つの目があって、1つの口があるが、2つの耳でよう聞いて、2つの目でよう確かめて、口は1つしかないんだから、半分ほど言えば言い過ごしはないもんよ。」
一方心の痛みを経験することは人生で重要だ。他人の痛みに気づけ、本当の優しさと許しが出来るようになるからである。例えば幼少の時父親が急死したりして母子家庭で経済的な辛酸をなめて育った子供が、神教の下で成長すれば、ひねくれず、歪まず、懐の深い親切な人物になるだろう。順調な世間的には恵まれて育った人には、思いもよらない気配りができるようになる。又、自分の家業の倒産のような大きな挫折を味わい、それを克服できた人は、人を見る目が、前とは違うだろう。人生が順風満帆で進んでいるのは、本当に幸運なのか、不運なのかはわからない。自分が真に理解できるのは、深く経験したことのある事柄・分野・立場に限られる。甘いだけの料理は不味い。甘さ・辛さ・酸っぱさ・苦さ・しょっぱいなどが程よくミックスしてこそ美味しい料理ができる。これと人生は同じだろう。老いてからの経済的試練などは乗り越えられない。そこで若い時に「繰り上げて」苦労することがよいと大神様は言われ、そのように運命を変えられたようにみえる同志もいた。
(注)アメリカの大企業に、社員が上司を毎年一回、匿名評価する制度を持っていたユニークな会社があった。これは社長の経験により作られた制度である。彼が大学生の時、太平洋戦争が起こり徴兵された。軍では上官が絶対権力を持っており、彼の上官は悪名高い人物だった。彼は理不尽にいじめ抜かれて、次は大激戦地に送られる運命にあった。何人もの新兵がこのコースで虐められた後、送られて戦死していた。彼に幸運が起こり直前に救い出された。この経験により、組織と人との洞察が深くなり、会社経営者になった時、上層部の幹部社員や管理職の横暴・パワーハラスメントを防ぐ仕組みを持つことが、健全な会社経営に必要と感じ制度を工夫した。上の人間に良い忠実な顔を見せ、下には酷くあたる人物は多い。ある意味役に立つ人物ではあるが、任せすぎると弊害が起こる。この辺の調節にも役立つ制度だったようだ。社長の若い時の痛い経験が大きく生きた例であろう。
変化の激しい現代では経営者が会社の状況を時事認識し対策を打てないとすぐにおかしくなる。ハイテク製品程商品サイクルは早く、流行衣料品と似て、3ヶ月、半年ぐらいしか商品寿命が無いものも多い。会社がおかしくなる時、現場の人間が最初に気づく。しかし上に行くほど悪い生の報告は薄められ握りつぶされていく。大企業だと社長に届くまでのライン管理階層は5−7ぐらいにもなる。各自の保身の為に悪い報告は自粛していく。「雨漏りは下にいるほど良く分かる」とは言い得て妙である。このため会社再建の名人は良く現場の人間からの直接の聞き取りを行う。組織における人心の機微で秀逸なのが韓非子であろう。また株価も敏感であるらしい。有名なのがアメリカのロケット事故の直後、その原因が全く不明なのに、某メーカーの株価が下がった。何ヶ月もの事故原因調査の結果判明したのは、そのメーカーの関与した部分に問題があったことである。