高橋是清随想録 まごころ

私が青年時代に最も感激したことが一つある。

御維新の前、ペルリ来朝の直後に、堀織部正という外国係りの幕府の役人が、その時分の外務大臣である外国奉行の、安藤対馬守に建白書を送って切腹したという事実がある。

その建白書を感激のあまり、私は写し取っておいた事があるが、その書き出しに、

「鳥のまさに死なんとするや其の声かなし。人のまさに死なんとするや其の云うことやよし、外国伊堀織部正、謹んで外国奉行安藤対馬守に申す」

とあった。私は、人の真心は、ここにあるのだ、ということをその時、深く感じた。

一身を賭し魂を籠めて、云ったりしたりした事は、その事の善悪にかかわらず、強く人を撃つものだ。

(注)外交方針に意見する時、堀織部正は自分の生命を付けて、提出した。